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カムイが歩いた跡にできる氷の丘
屈斜路湖が全面結氷するとあの氷の丘ができるかが気になります。屈斜路湖全面結氷後に発生する氷の裂け目がもりあがる現象、一般的には「御神渡り」と呼ばれる自然現象です。
2019年2月10にNHKで放送された"ニッポン印象派「湖が裂ける冬」"という番組で、アイヌ語「カムイ・パイカイ・ノカ(神の歩いた跡)」と紹介されました。
この現象、近年は数年に1回程度くらいの頻度で起こっています。最後に確認したのは2017年。
でもね。実際は、ごく小さなものが毎年確認されています。2019年はどうでしょうか。
屈斜路の伝道師「チームくっしゃろ」に聞いてみた。
ところで、弟子屈町には「チームくっしゃろ」という屈斜路愛にあふれたグループが存在しています。とにかく屈斜路のことならなんでも応えてくれます。きっと。
NHKで「カムイ・パイカイ・ノカ」として取り上げらるずっと以前からこの言葉を普及しようと情報発信を続けています。アイヌの普及活動も積極的に取り組んでおり、イベントや広報でも活躍されています。
また、てしかがじかんのポリシーとして「アイヌのことはにわか知識で語らない」という想いがあるので、「カムイ・パイカイ・ノカ」について監修をお願い、というかコラボしようぜ!ってことで話を聞いてきました。
カムイ パイカイ ノカ| てしかがじかん×チームくっしゃろ編
御神渡りとは
まず、このことを語るには「御神渡り」を知る必要があります。
諏訪湖で見られる氷の亀裂現象。湖面が全面結氷してひびわれが生じ、この部分が再結氷し、朝の昇温に伴って氷が膨張し、割れ目の部分を押し上げて氷堤をつくる。諏訪大社の祭神が上社から下社へ渡った跡として、亀裂の方向で吉凶を占う。
自然現象の理屈としては、屈斜路湖も同じ現象。ポイントは諏訪湖固有の名称であり神事であること。
諏訪大社の上社の男神「建御名方命(タケミナカタノミコト)」が下社の女神「八坂刀売命(ヤサカトメノミコト)」に会いに行った跡とされる。
このことを踏まえて、
"カムイ パイカイ ノカ"とは|更科源蔵の記録
冒頭に登場した画像のような「御神渡り」現象を見て、誰もが抱く思いは「神業以外の何物でもない」ということではないでしょうか。当然のことながら、昔のアイヌの人たちも同じ考えを持ちました。
そのことに関して聞き書きの記録を残してくれているのが、弟子屈町が誇る郷土の偉人・更科源蔵氏です。
こんな記述があります。
烈しく氷の裂ける音が長い尾を引いて走った。“湖の神が遊んで歩く音だ”と古老が言った。
屈斜路湖畔は零下30度を超すことがひと冬に2,3度はあったという。骨を凍らすような寒さは、“寒さを司る神”によるものだという。こうした寒さで氷が裂け盛り上がったところを、“カムイ パイカイ ノカ(神の歩いた跡)”といった更科源蔵「歴史と民俗 アイヌ」
この"音"は、屈斜路周辺に住む方なら誰しもが耳にする氷の共鳴音。自然の音とは思えないほど天高く響き、夜通し聞こえてくるシンセサイザーのようなネイチャーサウンド。
時には少し離れた川湯温泉でも聞かれることがあります。言葉だけではわかりにくいですがyoutubeなどで「屈斜路湖 氷の共鳴音」のように調べるといろいろ出てきます。
この記述にある"湖の神が遊んで歩く音"っていう表現にはかなりグッときます。カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)という言い方もあるように、アイヌの方たちは神の遊ぶ姿を想像していたのかもしれません。
そして、「御神渡り」と同様に"神の歩いた跡"となっています。
ひとつの現象を北海道の屈斜路湖と長野の諏訪湖で同じとらえ方をしていたことが分かります。こんなつながりがあると考えるとちょっと楽しくなりますね。
アイヌが初めて登場した「諏訪大明神絵詞」
諏訪湖の御神渡りの記録は、2019年時点で約574年に及ぶ連続した、非常に貴重な気象記録として世界的にも知られています。
また、日本資料で初めてアイヌの人たちを具体的に記述した文献として「諏訪大明神絵詞(えことば)」が挙げられます。アイヌの人たちに関わる歴史をひもとくとき、年表の一行を占める文字が「1356(延文元)年 諏訪大明神絵詞が成立」です。
こうして見ると、アイヌと諏訪の間にはなにか交流があったかのようにさえ思えてきます。
だとすれば、せっかく北海道なのだから、アイヌの言葉である「カムイ パイカイ ノカ」が北海道で一般的な言葉になったら嬉しいですね。
神の歩いた跡"カムイ パイカイ ノカ"|2019年
過去にはこんなものができました。2014年と2017年の"カムイ パイカイ ノカ"。
そして、2019年は小さいながらもたくさんの"カムイ パイカイ ノカ"が出来ています。ちょっと細かく出来過ぎで、氷の圧力が分散しているのか、雪が積もったためなのかサイズは控えめです。
ここ数日気温がプラスになったとおもったら朝は氷点下10数度まで下がったり、寒暖差が大きくなってなんとなく成長してきたように思います。
確かに近くに行くと「パキッパキッ」というきしむ音が聞こえてきます。もしかしたら冷え込むだけではだめなのかもしれませんね。膨張と収縮、2つがそろって初めて大きくなるのでしょう。
2019年はまだ成長の余地を残したままなのです。
とはいえ、氷は全体に薄く画像で見てもわかるように亀裂部分は融けてしまっています。氷には乗らないでくださいね。事故でこの貴重な現象が見られなくなるのは嫌ですからね。
最後に
今回編集に協力してくださった「チームくっしゃろ」さんには感謝。「チームくっしゃろ」さんはfacebookで屈斜路の情報発信を行っています。今回の内容もそれを参考にさせていただきました。本当にありがとうございました。
アイヌの方たちにゆかりのない自分がアイヌを語るには、それなりの覚悟というか想いを持って語りたかったので、このような記事が書けたことを嬉しく思います。
チームくっしゃろさんの想いでもある「カムイ パイカイ ノカ」を是非広めて欲しいものです。
それではまた!